秋本番、すっかりセミの鳴き声が聞こえなくなりました。
地中からはい出てきた幼虫が木に登り、殻を破るまで約2時間、セミの羽化直後の羽は透けるように白く、うっすらと色づいたエメラルドグリーンが神秘的です。妖精のようです。
だがこの美しい姿を世に現し、夏空へ羽ばたくまで、どれほどの戦いが必要だったか。羽化に適当な木が見つからないこともある。風にあおられ枝から落ちたり、天敵に襲われたりして半数以上が力尽きてしまうという。
成虫となったセミの鳴き声を「この世界にうまれたうれしさと、自分がこうして生きていることのたのしさを表すために、うたっている」と表現したのは昆虫学者ファーブルです。(奥本大三郎訳)。
土の中で何年も過ごし、ついに殻を破った喜びの歌だと思うと、あの“騒がしさ”も心地よいものです。
人間にも「殻」があります。“自分はこんなものだ”と決め付け、卑下する心がその一つ。しかし生命には“成長しよう“殻を破ろう”という本然のリズムが備わっているといいます。