自然の息づかいを笑写するブログ

遠くの観光地に行かなくても、身近にある自然が、あなたが来るのを、今か今かと首をながーくして待っています。自然は 喜ばせごっこ、おもてなしごっこ そして不思議な世界で溢れています。自然の笑アップを写し込んでアートにしています。

江戸時代、瓦版は庶民のニーズをくみ取ったエンターテインメント

        事件を面白、可笑しく
             黙認されていた非合法出版物

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節回し付けて内容を紹介

 

 皆さんは江戸時代の瓦版にどのようなイメージを持っているでしょうか。庶民の間で売り買いされた新聞の号外のようなもので、街角で「てえへんだ、てえへんだ。大事件だよ」などと叫びながら売られていたもの? 時代劇ではこんな風に描かれているかもしれません。
 しかし実際には、瓦版は、取り締まりの対象になる「非合法出版物」で、読売(売り子)は顔を隠して売っていました。ただ、法的には禁止されていても、多くは黙認され、厳しく取り締まられることはなかったようです。
 読売たちも、黙って売っていたわけではなく、だみ声で浪曲のような節を付けて内容を紹介しながら、時には三味線の伴奏を伴う「肉声で訴えるメディア」だったのです。
 そんな中、厳しく取り締まられたのが「幕府批判」と「心中事件」。これらを扱った瓦版は、もし見つかれば、命の保証はなかったといいます。表現の自由などがない時代だけに、当時の支配体制を揺るがしかねない幕府批判はもちろん、この世をはかなむ心中も、幕府が統べる“この世”を批判すると見なされたのです。
 瓦版の初期には多く扱われた心中事件ですが、次第に姿を消し、敵討ち、天災地変、珍事、奇談などへと変わっていきました。

 

でたらめな内容も

 

 特に面白い瓦版が増えるのが幕末。黒船来航の時は、黒船関連であれば何を出しても売れる“黒船バブル”が起きたほど。もうもうと煙を上げる蒸気船を描いたものをはじめ、アメリカが献上した模型の蒸気機関車、幕府の警護体制を解説したもの……。アメリカ関連の内容であれば、何でも瓦版になったといいます。
 中でも「阿女里香通人」は瓦版らしいもの。簡単にいうなら、日本語と英語の対照表。ただ、そこに瓦版ならではの“適当さ”を見ることができるのです。
 例えば、「うれしいこと」は「さんちょろ」、「子ども」は「ちゃあ」、「かなしいこと」は「めつそ」など。うれしいことはサンキュー、子どもはチャイルドを聞き間違えたと思えますが、悲しいことは日本語のめそめそから発想されたものと思われます。
 また、徳川家茂の大坂出陣を伝える瓦版「御進発供奉御名前附」は、3枚セットという横長のもの。約250年ぶりの将軍出陣とあって、戦況や背景などは書かれず、大行列の様子だけを解説した瓦版になっています。庶民にとって、政治的背景より、大行列の方が関心事だったのです。

 

エンタメを楽しむ

 

 江戸時代、瓦版は庶民のニーズをくみ取ったエンターテインメントの一つとして楽しまれていました。重大なニュースを伝えるというよりは、むしろ大道芸などと同じように、客の気を引きながら売られていたのです。
 しかも、人気の瓦版が出ると、それをまねした海賊版も多く出されました。正確さより、気になる内容を面白、可笑しくできるかどうかが重要だったのです。
 その意味では受け手のリテラシー(理解力)が問われる時代だったといえるのかもしれません。江戸時代は、うそが書かれていても、それ自体を楽しめるようなおおらかさがあったのです。
 大地震に関する瓦版を見ると、どれだけ被害が出たというまじめな内容の瓦版がある一方で、鯰絵などのように、非常にふざけた内容のものもあります。震災の悲しみに暮れるばかりでなく、ブラックジョークで笑い飛ばすようにして、復興に向けた勢いとしていたのかもしれません。
 江戸庶民の様子ばかりか、当時の人の気持ちまで伝わってくる瓦版。細かいところにこだわらない“いい加減さ”が、江戸時代のよき庶民文化なのだと感じます。

 

                  =談 森田健司 (大阪学院大学教授)